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水道民営化のメリット・デメリット

2017年3月7日、水道法改正案が閣議決定され、同日国会に提出されました。この改正案の目指すところは水道事業の民営化ですが、水道を民営化することの是非についてはよく考えるべきだと思います。そこで、水道の民営化について調べてみたのでまとめておきます。

 

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なぜ水道を民営化する必要があるのか? 

 

水道事業は設備更新の時期にさしかかっており、その費用を賄うことができないため

 

約40兆円にもなる水道施設の多くは、高度経済成長時代に整備されたもので、これらの施設が老朽化し、更新時期に入りつつあります。水道料金を安く抑えてきた結果、多くの自治体では、現在の料金ではこれら更新工事を賄えない状況にあります。厚生科学審議会の資料によれば、現在の水道管の更新率だと全ての管路を入れ替えるのに130年もかかるとされています。因みに水道管の法定耐用年数は40年ほどです(実際にはもっと長く使えます)

2016年11月17日 水道法の改正とコンセッションのメリットと課題 | 「コンセッション・民営化×水道事業」徹底解説!

 

少子高齢化した日本では、これから人口が減少することが確定しています。水道事業において人口の減少は需要減を意味し、現状のままでは収入が減少することは明らかです。さらに、高度経済成長期に整備された多くの水道設備が、更新しなければならない時期に来ています。平成26年度の水道管の更新率0.76%を基準にすると、水道菅の更新を終えるのに130年かかってしまうと予測されています。これは更新のための費用が水道事業のみでは賄えないためです。

公共性のためにできるだけ低く抑えた水道料金、水道事業のシステムではこれらの問題を解決することが難しいため、民営化によって民間企業の資本や経営手法を利用して負担を回避する、といったことが、水道民営化の主な理由・立法事実となっているようです。

 

水道民営化のメリット

水道事業の民営化においては、コンセッション方式が導入される予定です。コンセッション方式では、他のPFI事業と違って民間が経営主体となり、しがらみにとらわれない民間の活力を、より有効に利用出来ると期待されています。

 

このコンセッション方式と合わせた水道民営化のメリットは、

 

1. 既存債務の削減

2. 財政負担のない水道環境の維持

3. 経済合理性に基づいた経営の効率化

4. マーケットリスクの移転

5. 顧客サービスの向上

 

が主に挙げられています。

 

コンセッションを導入した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。まず発注者である公的機関のメリットとしては、民間事業者に公共施設の運営事業を任せることで財政負担なく、整備・維持運営することができる点があげられます。また、既存施設にコンセッション方式を導入する場合、運営権に対する対価を受け取ることができ、当該収入を原資に、既存債務を圧縮することができます。更に、民間のノウハウ導入による経営の効率化、マーケット・リスクの移転、行政組織のスリム化なども期待できます。一方で民間事業者側からしてみれば、今まで、公共施設の運営事業は公的機関の特権であり、参画することが出来なかったわけですから、新たな市場ができることになります。利用者によっても、民間事業者が所有する技術やノウハウを最大限活用し、不必要な経費については効率化しつつ、料金収入をあげるために、顧客サービスを充実させるはずですから、利用者も恩恵をうけることになるでしょう。

注目が高まるコンセッション方式と水道事業 | 「コンセッション・民営化×水道事業」徹底解説!

 

 

ここで先行事例として、1989年に水道を民営化したイギリスにおける結果を追加しておくと、

①民営化による効果

・資金を株式市場から調達することが可能となった

・設備投資額が拡大した

・事業運営コストが減少した

・断水件数が 13 万件から 1.1 万件に減少した

・水質基準への不適合が 1/100 から 1/700 に減少した

・漏水が減少した

・利用者サービスが向上した 

http://www.jwwa.or.jp/jigyou/kaigai_file/h25_seminar_gbr_summary.pdf

 

となっています。結論として、先に挙げられている水道民営化のメリットは、ある程度は想定通りの結果が得られると捉えても差し障りはないでしょう。

 

水道民営化のデメリット

水道民営化に対しては反対の声も上がっており、ライフラインである水を外国に握らせることになる(麻生太郎氏によるCSISでの発言からも、いわゆる水メジャーへの売却が想定されていると考えられる)、貧乏人には水を飲ませないつもりなのか等の反発があります。デメリットを考える上でイギリスの事例が実例として参考になるため、それに基づいてデメリットを挙げていきます。

水道料金の値上げ

イギリスの水道料金は、民営化してから20年間でおよそ45%増加しました。イギリスでは水道料金に関して、

 

平均価格上昇率 ≦ RPI+K

RPI=小売物価上昇率(インフレ率)

K=インフレ率に加算する各社固有の数値

 

という計算式で毎年上限が決められます。しかし実際には、上限いっぱいの値上げが続いており、OFWAT(水業務管理局)による1999年の12%の強制的な値下げが無ければ、水道料金はもっと値上げされていたでしょう。

 

日本のほとんどの水道料金のシステムは逓増料金制であり、利用量の少ない家庭レベルでは、料金単価は給水原価を下回っています。大和総研のレポート(http://www.dir.co.jp/consulting/theme_rpt/public_rpt/water/20140422_008457.pdf)によると、給水単価に対する供給単価のカバー率(経費回収率)は平均99.1%であり、多くの公営水道では、水道料金で給水単価が賄われています。つまり家庭で給水原価が下回っている部分を、利用料の多い企業(工場、店舗等)が補填しているということです。

このような仕組みは「所得の再分配」という考えを基底としたものであり、民間企業がこの考えを持つ必要性はありません。企業の利益を追求しない姿勢は、スポンサーからすれば背任であるかもしれません。設備更新のための費用や、耐震化という値上げに正当性を与える付加価値の追加を合わせて考えれば、水道民営化による水道料金の値上げは必然でしょう。

もちろん、現状のままでも水道料金は値上げは必然でしょうが。

水質の低下と株主への高配当・役員への高報酬

イギリスでは、水道料金を値上げしたにも関わらず、水質検査を通る水道水が85%低下しました。しかし一方で、株主への配当や役員報酬は、十分な額が支払われました。企業は株主の利益を最大限追求することが当然であり、公共性の高い水という資源を投資の対象として扱えば、こう言った状況は当然起こりうる問題でしょう。

海外企業による買収

インフラを海外企業に掌握されるリスクに加え、採算が取れなければ冷酷に撤退されるリスクもあります。

 

 

発展途上国のボリビアにおけるコチャンバ水紛争は、海外企業による買収によって「水」が公共性を喪失した顕著な事例だと考えられます。しかし、民営化が世界銀行からの融資を受ける条件であったこと等に鑑みると、日本との比較対象として用いるのは少し難しいと考え、今回の記事では割愛します。ただし、生きる上で欠かせない水という資源をどう捉えるべきなのか、公共の福祉を侵害する経済論理、世界における水道の再公営化の動きといったような点を考える際には、非常に重要な事例だと思います。

 

 

水道が民営化される際には、以上のデメリットに対して、民間企業の論理と反する水の公共性を保つための価格抑制の仕組み作りや、法的な力を持つ監査機関の設置が適切に行われるか等、注視しておかなければいけないでしょう。